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2007年8月の1件の記事

もうすぐ公開。松江哲明さんの『童貞。をプロデュース』

Dtpr
ドキュメンタリー作家の松江哲明さんが『童貞。をプロデュース』という新作を作られて、先日、そのプロモ用DVDを頂戴した。

松江さんとはじめてお会いしたのは6年前。「在日」、「部落」出身者、「ゲイ」、「女」というマイノリティ4人が話し合うという『クィア・ジャパン』4号での座談会でのことだった。はじめての作品にして出世作となった『あんにょんキムチ』が評判になっていた「在日」担当の松江さんは、純朴を絵に描いたような風貌をされていた。発言もてらいの無い、のびのびとしたものであり、「部落」担当の人のちくちくとしたイヤミ――それを誘発したのはたぶん私なのだが――に応戦していた「女」担当の私にとって、ほっと息つけるものであった。

その後、純朴を絵に描いたような青年がAVを撮りはじめたと聞いて意外に感じるとともに、純朴な青年がAVを撮影することを「意外」と受けとってしまう自らの偏見を嫌悪した。そのAVがとおり一遍のものではないという評判も耳にして、「がんばってるなぁ」と遠くから眺めていた。しばらく没交渉だったのだが、このたび松江さんが童貞を扱うことになり、親切にもDVDを送ってくださったのだった。

ドキドキしながら、いただいたDVDを再生する。
松江さんの声がする。姿は見えない。
「加賀さぁ、オマエ、なんか恋愛してんだって?」
「童貞1号」加賀くんに上から話しかけるその声は、みうらじゅんと伊集院光的「DT/ヤリチン」の二分法でいうところの「DT」のものではすでになく、完全に「ヤリチン」のものであった。
松江さんは「あっち」の側に行ってしまったのだと、一瞬寂しい思いがする。

この導入から薄々わかるとおり、本作のテーマは、非童貞の松江さんが知り合いの童貞男子をして性交未経験状態から「脱出」させることである。松江さんが童貞状態を肯定していないことからいって、「プロデュース」とは童貞を経験ズミ状態へと「正常化」することにほかならない。

作品の告知でも「プロデュース」の内実はほぼ同様に説明されているのだが、しかし、最後まで観てみると、「プロデュース」の意味がきわめて多義的であることに気がつく。松江監督が自覚しているかどうかはともかく、目指した場所とは異なる地点で最終的に童貞が「プロデュース」されていることが、この作品の最大の見所であると私は思う。ネタバレ防止のためにあやふやな書き方しかできないのがもどかしいが、これはきわめて重要な点だ。

とりわけ「童貞2号」梅澤くんの巻において、本来の意味で「プロデュース」されきれなかったからこそ彼が経験したサプライズは、この作品にほっこりとした温かさを付与する。かのシーンは、非モテ状態を肯定する思想的セーフティネットの確立を要請するワタクシの主張とも一脈通じるところがあり、うれしい。
公開時にはDVDとは別の映像も加わるらしいから即断は避けたいが、松江さんは「あっち」の側には未だ行っていなかったのだ。おそらく。

それにしてもなぜ非童貞は童貞を「卒業」へと追い立てたがるのか。『日本の童貞』執筆時に資料に当たりながら抱いて未だ氷解していない疑問は、当作品を視聴している時にも沸きおこった。

基本、男性は他の男性より優位に立つことを自らの自尊心の糧にしているようなところがある。性経験が豊富なほうがエライという価値観がはびこる社会においては、かような傾向を持つ非童貞が性の側面における優越性を維持しつづけるためには、他の男性には童貞でいてもらったほうが合理的だ。なのに現実はそうなっておらず、むしろ非童貞は積極的に童貞にたいして性行為をするよう働きかける。

なぜ非童貞は童貞を「卒業」へと追い立てたがるのか。
「卒業」させようとおせっかいを焼くことそのものが男としての優位性を確認するプロセスなのだろうかとか、セジウィックの「ホモソーシャル」じゃないが、女とやらせたいフリしてじつは非童貞本人がその童貞とやりたいんじゃないかとか、いろいろ考えたけれど、どうもしっくりこない。
あるいは、根拠なき信念ほど強固に信奉・継承されるという一般法則がこの件にも当てはまるのであり、非童貞が性交未経験の同胞にたいしてあびせる「童貞を捨てやがれコノヤロー」という怒声にたいしても、「なぜ」を問うだけ無駄というものなのか。
『童貞。をプロデュース』しようとした松江さんはどう考えるだろうか。一度お尋ねしてみたい気がする。

技術的なところでいうと、童貞たちに勝手好きずきに手持ちカメラで撮らせたビデオを編集する松江監督の「まとめあげぶり」には感嘆した。「童貞1号」加賀くんが自転車を走らせる影に、自転車とまさみさんが彼を半引きこもり状態から救いだした旨のテロップを重ねるセンス。「童貞2号」梅澤くんのお買い物の戦利品をテロップでファスト風土化(by 三浦展)した風景に重ねるセンス。「編集」が、撮った素材に命をふきこむ作業であることを実感する。

苦言を呈するならば、童貞1号にたいする「荒療治」はあんまりだと思った。勃起しているからといって必ずしも快楽を感じているわけではないことは男性の性被害にまつわる一連の文献で強調されていることで、あのシーンは観ていて辛すぎた。彼の心情を想像するたび、心臓が痛む。

『童貞。をプロデュース』は東京では池袋シネマロサにて8月25日~9月7日の間に公開、大阪では9月22日から公開だそうです。松江さんとゲストによるトークもあります。

『童貞。をプロデュース』オフィシャルサイト
http://www.spopro.net/virgin_wildsides/


追記: 80年代のアイドル島田奈美さんの名前を久しぶりに聞いた。パステルカラーの風船がいっぱいの『ザ・ベスト10』のスタジオで、島田さんがローラースケートを転がしながら「内気なキューピッド」を歌っていた場面を鮮明に覚えている。
とんねるず世代にとっては、TBSのドラマ『お坊っチャマにはわかるまい!』でノリさんの妹役を演じていたのがやたら羨ましかったです。

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