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ソウルへの旅路で東方神起5thアルバム『TONE』を聴く――あるいは『TONE』をネタにした音楽版・生活綴り方

※ 約5,800字です。

Yellow_sajin

 10月30日エントリでは、「音楽レビュー」をしようとして音楽レビューとは何かを知るために参考書を当たったところ音楽レビューといわれるものは自分にはムリ&そないにやりたいわけでもないことが明らかになり、じゃあどういう形で彼らの音楽に言及したいのかというと、「聴いた時の背景(コンテクスト)も込みで楽曲(コンテンツ)の印象を示す」、ひいては、アルバムをネタとしながら「東方神起と私の人生とのかかわりを示す」ことという結論に至った。そして、そうした文章はもはや「音楽レビュー」ではなく「音楽版・生活綴り方」というべきものであることが明らかになった。

 上記エントリをふまえ、以下では、9月28日発売の東方神起の日本での5枚目のアルバム『TONE』をネタとしながら、「音楽版・生活綴り方」の実践を試みる。

 mu-moからの宅配便で本作を落手したのは公式の発売日の前日である9月27日昼すぎ。ソウル大での発表のためにこの日の夕方の飛行機に乗る予定であり、ギリギリまでレジメを手直しし、服にアイロンをかけ、荷造りをするかたわら、3種類到着したうちの曲数がいちばん多いイエローのアルバムをパソコンにぶっこみ、iPodに移して電車に飛び乗った(はじめて東方さんのアルバムを聴く人は15曲入りのイエロー版がオススメだよ。安いのは通常盤。他のファンの方々が書いた初回盤のリキの入ったレビューもぜひ読んでください)。

 愛する歌手の故国に向かう旅路で新アルバムを聴く機会に遭遇することは人生においてそう多くはないハズであり、まずはその状況に胸アツになりながらイヤホンを装着。はじめに飛びこんできた童謡ふうの1曲目「Introduction ~magenta~」に衝撃を受ける。

 なんて優しい声だろう。歌詞は聞かない派の私の耳にもすんなりと入ってくる「言の葉」の美しさにうっとりしながら、童謡ふうの曲が入っているとは聞いていたもののまさか一曲目とは、と不意をつかれた。この曲順にスタッフ陣の大胆な決断力を見、そんなスタッフが手掛けるアルバムならばきっとすごいに違いないと期待が高まる。

 衝撃といえばもう一つ。恥ずかしながら私はこの曲をチャンミンのソロ曲と思いながら1カ月近く聴いていた。3年ほど使っているイヤホンがボロくなったので、ゼンハイザーのIE8を入手、そいつで聴いた時にはじめて「ユノも歌ってる!」と気づいたのだった。インタビューで二人の歌声は似ていると本人たちが言っていて、「そうかなぁ」と思っていたのだが似てたね! いや参った!

 2009年7月以降、東方さんの声を聴かない日はなかったのであり、声を聞き間違えるという初歩的なミスを犯すはずはないと思っていた。が、このていたらく。なぜ1カ月近くも「Introduction ~magenta~」をチャンミンのソロ曲と思いこんでいたのかというと、イヤホンがボロかったということもあるが、第1に、『3rd Asia Tour “MIROTIC”』でチャンミンがソロで歌った「한달(ハンダル/半月)」にテイストが似ていて、その印象に引きずられていたからである(この曲のチャンミンの声には、世界のあらゆる邪悪なものを浄化するかのような透明感がある。収録されているライブCDオススメです)。

 第2に、ユノの高音を聴き慣れていなかったからだと思う。いま一度韓国第5集『왜~Keep Your Head Down』の「Honey Funny Bunny」を聴き返せばユノの技巧的なファルセットが披露されていることに気づくのだが、「Introduction」での高音とはちょっと違う。それで気づかなかった。まー、言い訳ですが(「Honey Funny Bunny」も「えっ、ユノってこんな歌い方できるの?!」と衝撃だった。イントロのピアノの音を聴くと、アルバムが出たころの厳しいながらもさっぱりした冬のソウルの冷気が鼻先に漂ってくる)。

 1曲目で得た期待が確信に変わるのが、2曲目の「B.U.T.」。冒頭の「びよーん」という効果音が流れた瞬間、秋の山里から一転、気持ちはダンスフロアに連行される。いやもうこの切り替えが大胆すぎ。なのに違和感ない。いや、違和感あるけど受け入れられる違和感というか。じゃそれ違和感じゃないじゃない――などといった理屈はぬきにして、あー、「ノれる曲」ってこういうのをいうんですねユ・ヨンジン先生! と心の中で叫ぶ。叫ぶのみならず、頸部だけで軽くリズムを取ってみる。

 どうでもいい情報だが(というか、「生活綴り方」という時点でこの文章はどうでもいい情報の固まりなのだが)、澁谷は今年の2月からダンスを習っている。1年間「呪文-MIROTIC-」を自主練したものの、いっこうに上達しなかったのでプロの手を借りたのが発端だった。

 数週間に渡る「呪文」レッスンを終えたあと、HIP HOP もやってみないかと誘われ、今も細ぼそと続けている。レッスンでは体でリズムを取る練習「リズムトレーニング」をするのだが、それを学んで以降、いい音楽には自然とノるカラダになってしまった。

 いろいろ試してみたところ、エレクトロ系の音楽はほぼ例外なくノれる。ロック、ソウルもだいたいノれる。意外だったのはジャズで、好きなんだがノれないのだった。おそらく、HIP HOP 的なリズムの取り方が合わないというだけで、ジャズにはジャズのノり方があるのだろう。「スウィングしなけりゃ意味がない」(by デューク・エリントン)っていうくらいだから。

 3曲目のダンス曲「I think U know」に至る流れもたいへん気持ちがよく、前曲とコレを続けて聴きながら踊りたい衝動を抑えるのは難しい。1年後にあんな悲劇が起こるなんて誰も予想していなかった2000年9月のNYの地下鉄で、他人の邪魔にならない程度に人びとがフツーに音楽にノっていたり口ずさんでいたことを思いだし、ここがNYだったらもうちょっとノっても許されたのかしらと車窓に広がる武蔵野ののどかな風景に目をやる。

 とにかく「I think U know」のノリの良さは無形文化財級といってもよく、あとで作曲家を調べたらNermin Harambasic、Robin Janssen、Ronny Svendsen、Anne Judith Wik の各氏で、少女時代の「Genie」も手掛けたノルウェーのチーム Dsign music の皆さんであった。うわ、踊りたくなるはずだ!

 ディレクターはエイベックスの安原勝利氏であり、1分4秒目で聞かれるチャンミンのドSっぷり満開の「ぅおーっけぇ!」は氏のディレクションの賜物と察する。いやーいいよねーこの掛け声。これをおかずにメシ3杯はいける。

 そんなダンスパートを経て次なる「Duet」を聴いた時に私の胸に去来したのが「J-POPもイイネ」という思いだった。J-POPが何であるのかはっきりした定義があるわけではないが、ここ2年ほどで「踊れる曲=K-POP」、「落ち着ける曲=J-POP」というヘンな(しかしあながち間違ってるともいえない)区分が私の中で出来上がっている。Aメロ、Bメロの途中で伴奏が短調になる部分があり、そこが歌詞の主人公の切ない気持ちとリンクしているようで、キュンとくる。

 おそらく歌詞の主人公は理想の高い人であろう。「まだ駄目だ まだだ」という言葉にデュエットの完成形にたいする飽くなき探求心を垣間見る。現状にたいして挑戦しつづけるユノとチャンミンが強い調子で「まだダメだっ」なんて歌うのを聴くと、さらにメシ3杯いける感じがする。

 「J-POPもイイネ」で気になったのは、海外の作家が手掛けた曲、日本の作曲家が手掛けた曲、それぞれどれくらいこのアルバムに収録されているのかということであった。あとで調べたところ、自分の予想とかなり違っていた。この件については別記事に回す。

 5曲目の「Thank you my girl」。オーケストラからの入りがおもしろい。こちらも日本の作曲家の作品と思いきや、そうではなかった。

 6曲目は「Telephone」。電車の車窓は郊外の風景を映していた。小さなビルやアパートやマンションの中に人が住んでいて、中にはこの歌に出てくる人たちのような素朴な恋愛をしている人もいるのかと思うと涙腺がゆるむ。この世のどーでもいいことベスト10の第1位に恋愛を挙げたい私であるが、ユノとチャンミンはそんな人間をも説き伏せるストーリーテラーである。

 7曲目のバラード「Back to Tomorrow」は15曲入りのアルバムの中盤にふさわしい。荘厳なメロディが「前半のシメ」的雰囲気。2巡目にこの曲に当たった時がちょうど羽田空港手前で、夕暮れのパープルラインに映える富士山が美しかった。

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 8曲目は後半戦のスタートを告げる「Why? [Keep Your Head Down]」。ほんっっっっっとカッコいい曲だよね。ある作曲家が、後の世代になればなるほど作曲家は不利になる、なぜなら作曲でやれることは先の世代がとっくにやっちゃってるから、ってな意味のことを言っていたのだが、そうした不利を乗りこえてこのメロディとアレンジを見つけだしたユ・ヨンジン先生の才能に Head Down しないわけにはいかない。SMPの真骨頂である。

 またも脱線するが、近田春夫さんが『週刊文春』2011年2月24日号の「考えるヒット」でこの曲を評価、2回目のラップ部分から終わりまでを「発狂寸前のアンドロイドが演じたらこんな感じなのでは? と思わせるデジタルなハイスピードぶり」と形容していて(66頁)、こらぁ大変うまいことおっしゃると感心して以来、2回目のラップ部分はそうとしか聴こえなくなった。

 人の言葉によって音楽の聴き方が変わる。そのことを整理して理解しえたのは、10月30日エントリ脱稿後、岡田暁生さんの『音楽の聴き方 聴く型と趣味を語る言葉』(中公新書)を読んだあとだった。音楽について文章をものしたいのだがどうやったらいいのか分からないとこぼした私に、芸術について流麗な文章を書かれる大先輩が薦めてくださり、数カ月前に買っておいたものを手にしたのだった。第2章「音楽を語る言葉を探す」は、まさしく今の私が知りたいことはこれだとむさぼるように読んだ。そして上記エントリを書く前に読んでおけばよかったと後悔した。音楽を語る方法は、印象批評や様式分析だけではないことが分かったからである。

 音楽は言葉によって作られると岡田さんは言う(59頁)。そして、スメタナ「モルダウ」の「狩りの音楽」を指揮する指揮者が「ここではもっと喜びを爆発させて、ただし狩人ではなく猟犬の歓喜を」と指示する例を出し(61頁)、「猟犬の喜び」という言葉を与えられることによって、音楽に内在する強烈な運動感覚が私たちの身体に喚起されることを指摘している(63頁)。

 やや文脈は異なるが、近田さんの「発狂寸前のアンドロイド」という言葉によって、私の中で「Why?」には新しい解釈が与えられた。「重いビートが効いたSMP」という解釈に1枚乗る形で、「発狂寸前のアンドロイド」が案内する「近未来的な景色」(これも近田さんの言葉)が見える曲になった。音楽レビューってのは新たな「音楽の聴き方」をもたらすものなんだね。そういう音楽レビューなら自分も書いてみたい。

 9曲目、「MAXIMUM」。「Why?」と並んでカッコよすぎる曲。これもいかにもユ・ヨンジン先生サウンド。韓国の歌番組などではよく2曲セットで歌われるよね。2曲つづけて「the ユ・ヨンジン」だとお腹いっぱいになるところだけれど、「MAXIMUM」はさほど低音バキバキというわけでもなく、「Why?」が長男なら「MAXIMUM」は次男のようなポジションを確保しており、意外とポップで聴きやすいです。

 10曲目「I Don't Know」と11曲目「Superstar」は2・3曲目に並ぶ第2のダンスパート。ベース音とフックの仕掛けが効いている「I Don't Know」はてっきり欧米人の作曲かと思っていたが、韓国の hitchhiker さんだった。Brown Eyed Girls 「Abracadabra」やf(x)「Ice Crem」や少女時代「Show! Show! Show!」を手掛けた方です。

 12曲目、「シアワセ色の花」。脳内ダンスを繰り広げて一休みしたい脳に沁み入る優しいバラード。6分強の長尺。あとで歌ってみたところ、案外体力が必要な歌だった。

 13曲目、「Easy Mind」。電車から空港バスにのりかえ、バスが代々木から高速に乗りはじめた時に流れてきたのがコレで、空港に向かってぐんぐんスピードを上げていくバスの勢いと、速いテンポの明るい曲調とが旅に出発する用のBGMかというぐらいに合致していたのだった。最後のユノのぎこちない口笛と楽しげな笑い声に萌えすぎて、思わず拳を握りしめる。

 このテンポが心地よいので、オンライン・メトロノームで合致するものを探してみたのだけれど、よく分からなかった。約110bpmってことでOK? メトロノーム音だけで聴くと疾走感が足りない気がするのだけど。

 14曲目の「Weep」。最初は普通のラブソングとして聴いていた。が、10度目ぐらいだろうか、「これ、もしかしたら2人を待っていたファンへのメッセージなのか?」と気づき(遅すぎ)、その解釈で聴いたら滂沱の涙。

 これから刊行される某媒体に書いたことだけど、アルバム『왜』は、完成度はもちろんのこと聴き手に作品世界を「生きさせる」作用がすごい。シングル発売時の「Why?」の韓国語から日本語への翻訳のされ方(だいぶ言葉づかいがやわらかくなっていた)を見、日本の制作陣はその作用を用いるつもりはないのかと思っていたが、そうでもないと見た。

 15曲目。赤坂付近のトンネルにさしかかって流れた「Somebody to Love 2011」では不覚にも泣いた。なんの涙かは分からない。これ、リテイクですかね? それとも原曲の編集? いずれにしても、チャンミンの声がかわいらしい。立派な青年になったチャンミンだけど、やっぱりかわいらしい所は残っている。韓国5集のおまけカードのオフショットの前髪をおろしたチャンミンが、デビュー当時と見紛うほど初々しかったことを思いだす。

 トンネルを抜けて、再び「Introduction」へ。アルバムは2巡目に入った。

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